〇周知の如く、近年、C型肝炎の画期的抗ウイルス新薬が発売され、高い有効率でウイルスを駆除できるようになり、話題になっています。
しかし、B型肝炎では、従来から、ウイルスを抑える抗ウイルス薬として、いくつかの有効な核酸アナログ剤が使われておりますが、ウイルスを完全に駆除するような新薬は開発途上です。
〇このような状況の中で、東京医科歯科大学(朝比奈靖浩教授らの研究グループ)から発表された“ヒトiPS細胞を使ったB型肝炎ウイルスの感染培養系”は、B型肝炎の抗ウイルス薬を創薬するするための強力な手段を提供するものです。つまり、人間の肝細胞に代替できる人工の創薬実験系が開発されたということです。これにより、B型肝炎新薬の開発が更に加速されることが期待されます。
〇QlifePro 2016年07月12日の発表記事の抜粋を掲載します。
関心のある方は、QlifePro 2016年07月12日 及び 化学工業日報2016年7月26日 (火) をご覧ください。
【千葉肝臓友の会】
目次
ヒトiPS細胞でB型肝炎ウイルスの長期間感染・培養に成功-東京医歯大
QlifePro 2016年07月12日より
創薬に必要なB型肝炎ウイルスの感染培養系の開発に挑戦
東京医科歯科大学は7月8日、ヒトiPS細胞を用いてB型肝炎ウイルスを長期にわたり感染・培養することに世界で初めて成功したと発表した。この研究は、同大学大学院医歯学総合研究科肝臓病態制御学講座の朝比奈靖浩教授らの研究グループが、国立感染症研究所、東海大学、国立国際医療研究センター、東京大学医科学研究所と共同で行ったもの。研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版に同日付けで発表された。
B型肝炎ウイルスの新薬の開発には、シャーレの中の細胞でウイルスを感染させ培養することが必須だが、これまではヒトから摘出した肝臓あるいは肝臓がんから細胞を取り出す必要があった。しかし、前者は入手困難な上に長期培養が不可能で、長期にわたってウイルスを排除できないB型肝炎の特徴を再現することが難しいこと、後者はがんからできた細胞のため、生体内の普通の細胞とは全く異なる性質に変化しているという決定的な欠点があり、創薬研究を困難にしていた。
研究グループでは、iPS細胞がヒトのあらゆる臓器になる能力を有する多能性の幹細胞であることに着目。iPS細胞から長期間培養することが可能なヒトの肝臓細胞を作成し、創薬に必要なB型肝炎ウイルスの感染培養系の開発に挑戦した。
より生体内に近い状態での薬剤作用機序の解析可能に
研究グループはまず、これまで長年培ってきたiPS細胞分化・培養技術を用い、ヒトiPS細胞から肝前駆細胞株を樹立。この細胞の性状を詳細に検討すると、生体内の肝臓細胞と類似の性質を保持し続けていることが確認された。さらに、これまでの生体肝臓由来の細胞では不可能であった、シャーレの中での長期間の培養が可能だったとしている。
この細胞において野生型のB型肝炎ウイルスと蛍光を発する組み換えB型肝炎ウイルスを用いて研究を進めたところ、B型肝炎ウイルスの感染が成立し、実際の患者と同様のウイルスの持続感染と潜伏感染を再現することに成功。さらに、ヒトiPS細胞に人工的に遺伝子を導入する先進技術を駆使して、B型肝炎ウイルスの受容体遺伝子を高発現するiPS由来肝前駆細胞株を樹立したところ、感染効率が向上し、より効率的で創薬研究に適した感染培養系の開発に成功した。