(2017年6月3日改訂)
目次
はじめに
千葉肝臓友の会副会長 篠田省輔(肝炎コーディネーター)
〔2017年6月3日の更新版では、「ハーボニー」のC型肝炎ジェノタイプ2型への適用拡大の申請について追記しました。(下線部)〕
概要は下記の通りです。
ギリアド・サイエンシズ株式会社は、4月28日、C 型慢性肝炎治療薬「ハーボニー®配合錠」 について、 「セログループ 2(ジェノタイプ 2)の C 型慢性肝炎又は C 型代償性肝硬変向けの抗ウイルス剤への適応拡大の承認申請を行 ったと、発表しました。今回の適応拡大が承認されますと、日本におけるほぼすべての C 型慢性肝炎を占め るジェノタイプ 1 及び 2 型の治療がリバビリンを使用しないハーボニーで可能にな ります。従来、セログループ 2(ジェノタイプ 2)の抗ウイルス療法は、リバビリンを併用するため、貧血などの副作用があり、リバビリンを使用しない治療法が待望されています。貧血で適用を躊躇されているジェノタイプ2型患者さんにとっては、朗報です。 おそらく、今年の秋頃~年内には承認されると予想されます。(2017年6月3日追記)
【急報!!】→ 「C 型肝炎治療薬「ハーボニー」の偽造品が発見されました、要注意!!」 (下線部をクリックすれば、開きます)。
(2015年10月更新版では、ハーボニーの治験結果を追記しました。この部分は国立国際医療研究センターの治験資料から要約・抜粋したものです。)
C型肝炎の治療は、C型ウイルスを駆除することが基本で、長年、抗ウイルス治療法として、インターフェロン治療が行われてきたのは周知のことです。この治療は、初期はインターフェロン単独、その後リバビリンを併用、近年ではこれにさらに第3の薬を追加し、3剤併用療法が主流となっていました。いずれにしてもインターフェロンが主剤であり、副作用が強く、それに耐えても、必ずしも治癒するとは限らず、今尚、多くのC型肝炎の患者さんがおられます。
そんな中、昨年9月、ジェノタイプ1型患者向けの経口新薬、即ち、インターフェロンフリーの新薬、ダクルインザ(ダクラタスビル)・スンベプラ(アスナプレビル)がブリストルマイヤーズ社から発売されました。この薬は、インターフェロンを使わずに治療でき、副用も比較的軽く、著効率も85%と比較的高いのです。インターフェロン治療ができない、又は治らなかった患者に、加えて初回治療の方にも適用が広がっています。いよいよ、C型肝炎は飲み薬で治療する時代が到来したと言えます。他方、この薬は、耐性変異遺伝子を持つウイルスには効き難いことや、ウイルス駆除に失敗すると、多剤耐性変異を獲得するという問題を抱えており、無条件では適用できず、全面普及の足かせになっています。
この状況の中、今年になって、インターフェロンを使わない、しかも著効率が極めて高い(95%~100%)、治療期間も3ヵ月という、画期的新薬がジェノタイプ2型向けに発売されました。多くのC型肝炎患者にとって、待ちに待った画期的新薬といっても過言ではありません。その名は、「ソバルディ(ソホスブビル)」といい、今年3月に承認され、5月25日からギリアド社より発売されました。従来薬であるリバビリンと併用します。
又、このソバルディに、レディパスビル(NS3阻害薬)を組み合わせ、合剤にした「ハーボニー」という名の新薬がジェノタイプ1型向けに、2015年7月3日に承認され、同年8月26日に薬価(1錠8万171円)が決まり、同27日に保険及び医療費助成の適用が決定しました。発売、適用は8月31日より可能となりました。
これらの新薬治療は、治験結果によると、重い副作用がなく、殆ど100%に近い確率で治ると期待されています。まさに画期的な新薬の登場と言えます。
この新薬は、どんな薬なのか、最新情報はいまのところ、治験などの講演資料や先端の医学雑誌、ギリアド社資料などによる最新情報を、入手した限りにおいて、取り急ぎお知らせします。
ソバルディとハーボニー錠剤の写真及び薬価
(☆画像上でクリックすると拡大する。) ☆【追記】→上記価格は初期設定価格であり、2016年に価格改定され、ソバルディは4万2千円/錠に、ハーボニーは5万4千円/錠に値下げされました。
ソバルディ(ソホスブビル)の概要
- 一般名はソホスブビル、C型ウイルスに特異的に作用する核酸型ポリメラーゼ(NS5B)阻害薬です。
ウイルスのRNA連鎖に直接入り込みRNAの延長(成長)をストップするので、チェイン・ターミネーター (鎖を断ち切るもの)と言われている。 - C型ジェノタイプ1型から6型まで抗ウイルス作用がある。
- 耐性を生じにくい。
- 400㎎錠剤、1日に1回経口服用(3ヵ月治療)が標準治療である。
- 他の慢性C型肝炎治療薬と併用する。
- 米国、欧州をはじめ世界38ヵ国で承認され、治療を受けた患者は、約16万例に達する。
◎日本人のジェノタイプ2型への治験では、著効率(SVR12)は96%の高率であり、全被験者が投与を完遂し、いわゆる忍容性も良好である。
◎ソバルディ+リバビリン併用12週間療法は日本人のジェノタイプ2型C型慢性肝炎/代償性肝硬変に対する高い有効性と良好な忍容性を示すインターフェロンフリーの簡便な治療法である。
ソバルディの特徴
- 核酸型ポリメラーゼ(NS5B)阻害薬。
- 1日1回の内服経口薬、1回400㎎を内服する。
- 食事の影響を受けない。
- 腎で排出される。
- 併用するパートナー薬が必要である。
ウイルスへの作用機序(メカニズム)
- ウイルスのRNA複製をつかさどるポリメラーゼ(NS5B)を標的にする直接作用型抗ウイルス剤である。
- ウイルス複製時に核酸の代わりに取り込まれることで、RNA伸長反応を停止させる。即ち、チェイン・ターミネーター(鎖を断ち切るもの)として作用する。
ソホスブビル・リバビリンの治療成績
- ジェノタイプ2型への治験結果は総合して、著効率(SVR12) は96%であった。
- 著効が得られなかった症例、5例は再燃であったが、薬剤耐性は認められなかった。
ソホスブビル・リバビリンの治療法のおもな副作用
下図のような副作用は下図のようなものがある。比較的軽度又は中等度である。
ソホスブビルの適用に関する注意又は併用禁忌薬
- この薬の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
- 重度の腎機能障害又は透析を必要とする腎不全の患者 〇セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)が禁忌薬として指定されている。
- 米国では、抗不整脈薬のアミオダロン(アンカロン他)と併用すると、深刻な徐脈を生じると警告あり。
- その他、カルバマゼピン、フェニトイン、リファンピジン(リファジン)など、と併用すると、この薬の血漿 中の濃度が低下して薬効が減弱するおそれがある。(詳細はソバルディ錠の添付文書を参照)。
ハーボニーの臨床治験結果の概要(国立国際医療研究センター資料より)
〇ソホスブビル+レディパスビル±リバビリンの第2相試験では、肝硬変のない未治療患者とペグインターフェロン治療失敗例(55%の肝硬変例を含む)のジェノタイプ1型患者でおこなわれた。このLONGSTAR Studyといわれる治験では、著効率(SVR12)は下記の通りであった。(括弧内は被験者数)。
- ソホスブビル+レディパスビル 既治療例の場合:95%(19/20)
- ソホスブビル+レディパスビル+リバビリン 既治療例の場合:100%(20/20)
- ソホスブビル+レディパスビル 未治療例の場合:95%(19/20)
*肝硬変やペグインターフェロン失敗例を含めても全体でSVR12は、97%であった。
*忍容性に問題はなかった。
*副作用による中止例は認めなかった。
*上記の結果からハーボニー(ソホスブビル+レディパスビル)の第3相治験が行われた。
〇第3相試験では、ジェノタイプ1型のC型肝炎及び代償性肝硬変(約40%組み入れ)の患者を対象に行われた。
ただし、NS5A阻害薬による治療歴のある患者は除外された。
*治験結果は、全例,即ち、100%の患者が SVR12を達成した。(括弧内は治験患者数)。
- 既治療例 再燃患者:100%(39/39)、無効患者:100%(25/25)
- 代償性肝硬変例 なし:100%(117/117)、あり:100%(40/40)
- 年齢 65歳以下:100%(100/100)、65歳以上:100%(57/57)
ハーボニーの臨床治験の結論(国立国際医療研究センター資料より)
*ハーボニー配合錠(ソホスブビル+レディパスビル)12週間投与のSVR12率は100%
(ソホスブビル+レディパスビル+リバビリンのSVR 12 週間投与のSVR12 率は98 % )
- 開始時にNS5A RAVを有する被験者でのSVR率は 99%
- 前治療ペグインターフェロン+リバビリン+プロテアーゼ阻害剤で無効の被験者でのSVR率は100%
- SVR12 とSVR24 は100%一致
*ソホスブビル+レディパスビルは良好な忍容性を示した
- ソホスブビル+レディパスビル群の100% (157/157) が治療を完遂
*ソホスブビル+レディパスビルの12週間投与は日本人のジェタイプ1 型肝炎患者(C型代償性肝硬変含む)に対し、高い有効性と良好な忍容性を有するインターフェロン/リバビリンフリーの治療法に十分になり得る